【言語文化・古典探究】源氏物語 ~物の怪の出現・葵の上②~ 解説と練習問題(PDFダウンロード可能)

古典読解

源氏物語の「葵の上・物の怪の出現・御息所のもの思い」の解説と問題を無料で閲覧・ダウンロードすることができます!(長いため①と②の2つに分けています)

源氏物語とは

「源氏物語」は平安時代中期の1008年頃に紫式部によって書かれた作り物語です。

紫式部が活躍した時代は藤原氏による摂関政治の全盛期で、様々な貴族文化が誕生しました。

紫式部は一条天皇に入内した藤原彰子の女房(家庭教師のような役)として仕えました。

「源氏物語」は、誕生以前の作り物語である「竹取物語」「宇津保物語」「落窪物語」と歌物語である「伊勢物語」「大和物語」「平中物語」のよさを集めた集大成のような作品で、日本文学史上最高傑作と称されています。

※ 定期テストや入試で源氏物語より古い作品がよく出題されるので覚えるようにしましょう。

全五十四帖から成り、壺の第一帖から藤裏葉の第三十三帖までを一部、若菜上の第三十四帖から幻の第四十一帖までを二部、匂兵部卿の第四十二帖から夢浮橋の第五十四帖までを三部と大きく分けることができます。

内容は、一部と二部で平安時代の宮廷社会を舞台に、光源氏の生涯を、三部で光源氏の死後、子孫たちの生活が書かれています。

「物の怪の出現・葵の上」の大まかな

(前提知識)

光源氏には正妻である「葵の上」という女性がいましたが、浮気を繰り返す光源氏との関係は良好ではありませんでした。その時の光源氏は「六条の御息所」という人物と不倫関係にありました。六条の御息所は最初、気にしていませんでしたが、光源氏の教養の高さなどに触れ少しずつ惹かれていきました。しかし、葵の上が懐妊すると光源氏は六条の御息所から離れていきました。その後、賀茂祭でプライドを傷つけられた六条の御息所は、葵の上を恨み、生霊として葵の上に取りつき苦しめます。

(大まかな内容)

 まだ来ないと思われてた出産が始まり、葵の上が苦しみ始めます。それまで以上に加持祈祷をするが、例の生霊を話すことができず、葵の上が苦しみ泣く中で、光源氏に話をします。光源氏は葵の上の様子を見て、素敵だと感じると同時に心苦しさを感じます。葵の上と話ていくうちに声や雰囲気に違和感を覚え、六条の御息所だと気づきます。その後、子ども(夕霧)が無事産まれます。

原文

 あまりいたう泣き給へば、「心苦しき親たちの御ことを思し、またかく見給ふにつけて口惜しうおぼえ給ふにや。」と思して、「何ごともいとかうな思し入れそ。さりともけしうはおはせじ。いかなりとも必ず逢ふ瀬あなれば、対面はありなむ。大臣、宮なども、深き契りある仲は、めぐりても絶えざなれば、あひ見るほどありなむと思せ。」と慰め給ふに、「いで、あらずや。身の上のいと苦しきを、しばしやすめ給へと聞こえむとてなむ。かく参り来むともさらに思はぬを、もの思ふ人の魂はげにあくがるるものになむありける。」となつかしげに言ひて、

 嘆きわび空に乱るるわが魂を 結びとどめよ下交ひのつま

 とのたまふ声、けはひ、その人にもあらず変はり給へり。「いとあやし。」と思しめぐらすに、ただかの御息所なりけり。あさましう、人のとかく言ふを、よからぬ者どもの言ひ出づることと聞きにくく思してのたまひ消つを、目に見す見す、世にはかかることこそはありけれと、うとましうなりぬ。あな、心憂と思されて、「かくのたまへど、誰とこそ知らね。たしかにのたまへ。」とのたまへば、ただそれなる御ありさまに、あさましとは世の常なり。人々近う参るも、かたはらいたう思さる。

 すこし御声もしづまりたまへれば、隙おはするにやとて、宮の御湯持て寄せたまへるに、かき起こされたまひて、ほどなく生まれたまひぬ。うれしと思すこと限りなきに、人に駆り移したまへる御もののけども、ねたがりまどふ気配、いともの騒がしうて、後の事、またいと心もとなし。

現代語訳

 あまりにもひどくお泣きになるので、「気の毒な両親のことをお思いになり、またこのように自分をご覧になるにつけても残念にお思いになるのだろうか」とお思いになって、「何事もこんなに思いつめなさるな。いくらなんでも悪くならないでしょう。どのようになっても、必ず死後に会う時があるそうだから、きっと対面することがあるでしょう。大臣、宮なども深い縁のある間柄は、生まれ変わっても絶えないということだから、会う時がきっとあるだろうとお思いなさい。」とお慰めになると、「いいえ、違いますよ。体がとても苦しいので、しばらくおやめくださいと申しあげようと思って。こうしてやってこようとは思わないのに、物思いする人の魂は、ほんとうに体から離れるものでした。」と、親しそうに言って、

 嘆き悲しむあまり空で迷っている私の魂を、着物の下前の端を結んで、つなぎとめてくださいよ

 とおっしゃる声、様子は、葵の上ではなく、お変わりになっている。たいそう不思議なことだと考え巡らしご覧になると、まさにあの御息所(六条)なのであった。驚きあきれて、人があれこれ言うのを、身分の低い者たちが言い出すことだと聞きづらくお思いになって、否定しておられたが、まさに目の前に見て、世間にはこんなことがあるのだなあと、いやな気持ちになった。「ああ、嫌なこと」と思われて、「そのようにおっしゃるけれど、誰だかわからない。はっきりおっしゃりなさい。」とおっしゃると、まさにあの方(御息所)そっくりのご様子で、あきれたなどは世間普通並みである。侍女たちが近くへ来るのも、きまり悪くお思いになる。

 少しお声もおさまったので、楽になるときもおありになるのだろうかと思って、母宮が薬湯を持ってお寄りになったので、抱き起されなさって、まもなくお生まれになった。うれしいとお思いになることこの上ないが、よりましにお移しになっているおん物の怪どもが、くやしがってさわぐ様子はたいそう騒がしくて、後産のことがまたひどく気がかりである。

解説(ポイントのみ)

①あまりいたう泣き給へば、「心苦しき親たちの御ことを思し、またかく見給ふにつけて口惜しうおぼえ給ふにや。」と思して、

泣き「給へ」は尊敬語で「作者から葵の上」への敬意。「思し」は尊敬語で「光源氏から葵の上」への敬意。会話中の「給ふ」は尊敬語で「光源氏から葵の上」への敬意。給ふ「に」は体言に接続しているため「断定」と判断する。「や」は強調の係助詞で、結びの語は省略されている。

②「何ごともいとかうな思し入れそ。さりともけしうはおはせじ。いかなりとも必ず逢ふ瀬あなれば、

「な~そ」で禁止を表す。「思し入れ」は尊敬語で「光源氏から葵の上」への敬意。「おはせ」は尊敬語で「光源氏から葵の上」への敬意。「あ」は「あり」が音便化したもの。

③対面はありなむ。大臣、宮なども、深き契りある仲は、めぐりても絶えざなれば、あひ見るほどありなむと思せ。」と慰め給ふに、

「な」は下に推量の助動詞があるため「強意」と判断できる。「大臣」は「オトド」と読む。「ざ」は打消の助動詞「ず」が音便化したもの。あり「な」は文中にあるが下に「と」とあるため、言い切りだとわかり、「推量」と判断できる。「給ふ」は尊敬語で「作者から光源氏」への敬意。

④「いで、あらずや。身の上のいと苦しきを、しばしやすめ給へと聞こえむとてなむ。

「給へ」は尊敬語、「聞こえ」は謙譲語でともに「光源氏から葵の上」への敬意。「む」は謙譲語についており、文脈判断からも「意志」と判断できる。「なむ」は強調の係助詞で、結びの語は省略されている。

⑤かく参り来むともさらに思はぬを、もの思ふ人の魂はげにあくがるるものになむありける。」となつかしげに言ひて、

「参り来」は謙譲語で「六条の御息所から光源氏」への敬意。「む」は謙譲語についており、文脈判断からも「意志」と判断できる。「さらに~ぬ」で「まったく~ない」と訳す。

⑥嘆きわび空に乱るるわが魂を 結びとどめよ下交ひのつま

「つま」は「掛詞」で、妻と褄(物のはしの部分)の2つの意味がある。「乱るる」と「結び」、「とどめ」は「つま」の「縁語」になっている。「下交ひのつま」は「したがい」と読み、着物の先端を意味し、裾を結んでおくと魂が出て行かないという言い伝えがあった。

⑦とのたまふ声、けはひ、その人にもあらず変はり給へり。「いとあやし。」と思しめぐらすに、ただかの御息所なりけり。

「のたまふ」は尊敬語で「作者から六条の御息所」への敬意。「給へ」は尊敬語で「作者から葵の上」への敬意。「なり」は体言に接続しているため「断定」と判断する。

⑧あさましう、人のとかく言ふを、よからぬ者どもの言ひ出づることと聞きにくく思してのたまひ消つを、

「ぬ」は未然形に接続しているため「打消」と判断する。「思し」は尊敬語で「作者から光源氏」への敬意。「のたまひ」は尊敬語で「作者から光源氏」への敬意。

⑨目に見す見す、世にはかかることこそはありけれと、うとましうなりぬ。

「こそ」は強調の係助詞で、結びの語は「けれ」。「ぬ」は連用形に接続しているため「完了」と判断。

⑩あな、心憂と思されて、「かくのたまへど、誰とこそ知らね。たしかにのたまへ。」とのたまへば、

「思さ」は尊敬語で「作者から光源氏」への敬意。「れ」は未然形接続+「思われる」と訳すため「受身」と判断する。かく「のたまへ」は尊敬語で「光源氏から六条の御息所」への敬意。「こそ」は強調の係助詞で、結びの語は「ね」。たしかに「のたまへ」は尊敬語で、「光源氏から六条の御息所」への敬意。と「のたまへ」は尊敬語で「作者から光源氏」への敬意。

⑪ただそれなる御ありさまに、あさましとは世の常なり。人々近う参るも、かたはらいたう思さる。

「なる」と「なり」は体言に接続しているため「断定」と判断。「参る」は謙譲語で「作者から光源氏」への敬意。「思さ」は尊敬語で「作者から光源氏」への敬意。「る」は「思さ」という自発動詞についているため、「自発」と判断できる。

⑫すこし御声もしづまりたまへれば、隙おはするにやとて、宮の御湯持て寄せたまへるに、

「たまへ」は尊敬語で「作者から葵の上」への敬意。「れ」は四段活用の已然形に接続しているため「完了」だとわかる。「おはす」は尊敬語で「作者から葵の上」への敬意。「や」は強調の係助詞で、結びの語は省略されている。「たまへ」は尊敬語で「作者から宮」への敬意。「る」は四段活用の已然形に接続しているため「完了」だとわかる。

⑬かき起こされたまひて、ほどなく生まれたまひぬ。

「れ」は未然形接続+文脈判断で「受身」と判断する。され「たまひ」は尊敬語で「作者から葵の上」へ、生まれ「たまひ」は「作者から生まれた子」への敬意。「ぬ」は連用形に接続しているため「完了」。

⑭うれしと思すこと限りなきに、人に駆り移したまへる御もののけども、ねたがりまどふ気配、いともの騒がしうて、後の事、またいと心もとなし。

「思す」は尊敬語で「作者から光源氏」への敬意。「たまへ」は尊敬語で「作者から験者」への敬意。「る」は連用形に接続しているため「完了」。

練習問題(PDFダウンロード可能)

問題は

①本文中にある動詞・助動詞の確認問題(品詞分解)

②読解問題

の2パターンあります。

無料でダウンロードすることができます!(できない場合は連絡ください。)

学校で学習してない文法事項や知識があった場合は解かずに次の問題を解いてください。

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