【言語文化・古典探究】大鏡 〜 花山院の出家② 〜 解説と練習問題(PDFダウンロード可能)

古典読解

大鏡の「花山院の出家・花山院の退位」の解説と問題を無料で閲覧・ダウンロードすることができます!

大鏡とは

「大鏡」は平安時代後期の白河院の時に書かれた歴史物語です。

作者は不詳で、摂関家に近い男性官人が書いたとする説が有力です。

内容は850年の文徳天皇から、1025年の後一条天皇までの14人の天皇が在位した176年間の歴史を、大宅世継(オオヤケノヨツギ)と夏山繁樹(ナツヤマシゲキ)が対話し、それを若侍が批評するという形式で書いています。

主に藤原道長の栄華を中心に描き、特定の人物の焦点を置き歴史をみる「紀伝体」の方式をとっています。(時間の流れとともに書いた歴史書は「編年体」と呼びます。)

『水鏡』『増鏡』『今鏡』と共に「四鏡」の1つに数えられています。

「花山院の出家・花山院の退位」の大まかな内容

 花山天皇は十七歳のときに天皇に即位した。しかし、誰にも知らせずに十九歳の時に花山寺に出家してしまった。

 出家する当日、月が明るかるくためらったり、手紙を取りに帰ろうとする天皇に対し、神器を既に渡してしまった粟田殿は、うそ泣きをし寺に連れて行った。

 出家が終わった後、出家し弟子になると事前に伝えていた粟田殿は逃げてしまい、花山天皇は騙され悲しんだ。粟田殿の父は、粟田殿が出家させられないよう護衛をつけ守った。

原文

 さて、土御門より東ざまに率て出だし参らせ給ふに、晴明が家の前をわたらせ給へば、みづからの声にて、手をおびたたしく、はたはたと打ちて、「帝おりさせ給ふと見ゆる天変ありつるが、すでになりにけりと見ゆるかな。参りて奏せむ。車に装束疾うせよ。」といふ声聞かせ給ひけむ、さりともあはれには思し召しけむかし。「かつがつ、式神一人内裏に参れ。」と申しければ、目には見えぬものの、戸をおしあけて、御後ろをや見参らせけむ、「ただ今これより過ぎさせおはしますめり。」と答へけりとかや。その家、土御門町口なれば、御道なりけり。

 花山寺におはしましつきて、御髪下ろさせ給ひて後にぞ、粟田殿は、「まかり出でて、大臣にも、変はらぬ姿、いま一度見え、かくと案内申して、必ず参り侍らむ。」と申し給ひければ、「我をば謀るなりけり。」とてこそ、泣かせ給ひけれ。あはれに悲しきことなりな。日ごろ、よく、「御弟子にて候はむ。」と契りて、すかし申し給ひけむが恐ろしさよ。

 東三条殿は、「もしさることやし給ふ。」と危ふさに、さるべくおとなしき人々、なにがしかがしといふいみじき源氏の武者たちをこそ、御送りに添へられたりけれ。京のほどは隠れて、堤の辺よりぞうち出で参りける。寺などにては、「もし、おして人などやなし奉る。」とて、一尺ばかりの刀どもを抜きかけてぞ守り申しける。

これまでの内容は↓

【言語文化・古典探究】大鏡 〜 花山院の出家① 〜 解説と練習問題(PDFダウンロード可能)

現代語訳

 さて、土御門から東の方角へお連れ出し申し上げなさったととき、安倍晴明の家の前をお通りになさると、自身の声で、手を激しくはたはたとたたいて、「天皇がご退位なさると思われる天変がありますが、すでに決まってしまったと思われるなあ。参内して奏上しよう。牛車の支度を早くせよ。」という声をお聞きになられた天皇は、覚悟の上の出家とはいえ、しみじみと考え深くお思いになったでしょう。「ひとまず、式神を一人、御所へ参内させよ。」と申したところ、人の目には見えない何かが、戸を押し開けて、後ろ姿を拝見したのでしょうか、「たった今、ここをお通りになっていらっしゃるようです。」と答えたとかいうことです。安倍晴明の家は、土御門大路と町口通りとが交差する場所にあるので、通り道だったのだ。

 花山寺に御着きになられて、ご剃髪なさった後に、粟田殿は、「退出して、大臣にも、変わらない姿を、もう一度見せて、かれこれと事情を申し上げて、必ず参ります。」と申し上げなさったところ、「私をだましたのだな。」といってお泣きになられた。しみじみとおいたわしく悲しいことであるなあ。常々よく、「お弟子としてお仕え申し上げましょう。」と約束して、だまし申し上げなさったということは恐ろしいことでごす。

 東三条殿は、「万が一、出家をなさるのではないか。」と危惧し、ふさわしく思慮分別のある者たち、誰それと言う立派な源氏の武者たちを、お見送りに付けられた。京の辺りでは隠れて、鴨川堤の辺りからは詩型が現れて参りました。花山寺では、「もしや、無理矢理に誰かが家させ申し上げるのではないか。」といって、一尺ほどの長さの刀を抜きかけて見張られたのです。

これまでの内容は↓

【言語文化・古典探究】大鏡 〜 花山院の出家① 〜 解説と練習問題(PDFダウンロード可能)

解説(ポイントのみ)

①さて、土御門より東ざまに率て出だし参らせ給ふに、晴明が家の前をわたらせ給へば、みづからの声にて、手をおびたたしく、はたはたと打ちて、

「参らせ」は謙譲語で、「筆者から花山天皇」への敬意。「給ふ」は尊敬語で、「筆者から粟田殿」への敬意。「晴明」は「安倍晴明」のこと。「せ給へ」は二重尊敬で、「筆者から花山天皇」への敬意。

②「帝おりさせ給ふと見ゆる天変ありつるが、すでになりにけりと見ゆるかな。参りて奏せむ。車に装束疾うせよ。」

「させ給ふ」は二重尊敬で、「晴明から花山天皇」への敬意。「に」は連用形に接続しているため「完了」の助動詞。「参り」「奏せ」は謙譲語で、「晴明から花山天皇」への敬意。「む」は「意志」の助動詞。

③といふ声聞かせ給ひけむ、さりともあはれには思し召しけむかし。

「せ給ひ」は二重尊敬で、「筆者から花山天皇」への敬意。「けむ」は「過去推量」の助動詞。「思し召し」は尊敬語で、「筆者から花山天皇」への敬意。

④「かつがつ、式神一人内裏に参れ。」と申しければ、目には見えぬものの、戸をおしあけて、御後ろをや見参らせけむ、

「内裏」は「だいり」と読み、「天皇の居住空間」を意味する。「参れ」は謙譲語で、「晴明から花山天皇」への敬意。「申し」は謙譲語で、「筆者から式神」への敬意。「ぬ」は未然形に接続しているため「打消」の助動詞。「や」は疑問の係助詞で、結びの語は「けむ」。「参らせ」は謙譲語で、「筆者から花山天皇」への敬意。

⑤「ただ今これより過ぎさせおはしますめり。」と答へけりとかや。その家、土御門町口なれば、御道なりけり。

「させおはします」は二重尊敬で、「式神から花山天皇」への敬意。「めり」は「推定」の助動詞。「なれ」「なり」は体言に接続しているため「断定」の助動詞。

⑥花山寺におはしましつきて、御髪下ろさせ給ひて後にぞ、粟田殿は、

「おはしましつき」は尊敬語で、「筆者から花山天皇」への敬意。「せ給ひ」は二重尊敬で、「筆者から花山天皇」への敬意。

⑦「まかり出でて、大臣にも、変はらぬ姿、いま一度見え、かくと案内申して、必ず参り侍らむ。」と申し給ひければ、

「まかり出で」は謙譲語で、「粟田殿から花山天皇」への敬意。「ぬ」は未然形に接続しているため「打消」の助動詞。案内「申し」は謙譲語で、「粟田殿から大臣」への敬意。「参り」は謙譲語で、「粟田殿から花山天皇」への敬意。「侍り」は丁寧語で、「粟田殿から花山天皇」への敬意。「む」は「意志」の助動詞。と「申し」は謙譲語で、「筆者から花山天皇」への敬意。「給ひ」は尊敬語で、「筆者から粟田殿」への敬意。

⑥「我をば謀るなりけり。」とてこそ、泣かせ給ひけれ。あはれに悲しきことなりな。

「なり」は連体形に接続しているため「断定」と判断。「けり」は「詠嘆」の助動詞。「こそ」は強意の係助詞で、結びの語は「けれ」。「せ給ひ」は二重尊敬で、「筆者から花山天皇」への敬意。

⑦日ごろ、よく、「御弟子にて候はむ。」と契りて、すかし申し給ひけむが恐ろしさよ。

「候は」は謙譲語で、「粟田殿から花山天皇」への敬意。「む」は「意志」の助動詞。「申し」は謙譲語で、「筆者から花山天皇」への敬意。「給ひ」は尊敬語で、「筆者から粟田殿」への敬意。

⑧東三条殿は、「もしさることやし給ふ。」と危ふさに、さるべくおとなしき人々、なにがしかがしといふいみじき源氏の武者たちをこそ、御送りに添へられたりけれ。

「や」は疑問の係助詞で、結びの語は「給ふ」。「給ふ」は尊敬語で、「筆者から粟田殿」への敬意。「こそ」は強意の係助詞で、結びの語は「けれ」。「られ」は「尊敬」の助動詞で、「筆者から後三条殿」への敬意。

⑨京のほどは隠れて、堤の辺よりぞうち出で参りける。寺などにては、「もし、おして人などやなし奉る。」とて、一尺ばかりの刀どもを抜きかけてぞ守り申しける。

「ぞ」は強意の係助詞で、結びの語は「ける」。「参り」は謙譲語で、「筆者から粟田殿」への敬意。「や」は疑問の係助詞で、結びの語は「奉る」。「奉る」は謙譲語で、「筆者から粟田殿」への敬意。「申し」は謙譲語で、「筆者から粟田殿」への敬意。

これまでの内容は↓

【言語文化・古典探究】大鏡 〜 花山院の出家① 〜 解説と練習問題(PDFダウンロード可能)

練習問題(PDFダウンロード可能)

問題は

①本文中にある動詞・助動詞の確認問題(品詞分解)

②読解問題

の2パターンあります。

無料でダウンロードすることができます!(できない場合は連絡ください。)

学校で学習してない文法事項や知識があった場合は解かずに次の問題を解いてください。

大鏡「花山院の出家」 品詞分解 問題①

大鏡「花山院の出家」 品詞分解 問題②

大鏡「花山院の出家」 品詞分解 問題③

大鏡「花山院の出家」 読解問題①

大鏡「花山院の出家」 読解問題②

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