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伊勢物語とは
「伊勢物語」は平安時代である900年前後に書かれたとされています。(諸説あり)
同じ時期に書かれた作品は「竹取物語」や「古今和歌集」などがあります。
ジャンルは「歌物語」になります。歌物語の中では最古の作品で、同じ歌物語である『大和物語』など後世にできた作品に大きな影響を与えました。
作者は明らかになっていないものの、六歌仙の1人である「在原業平」という実在した歌人がモデルになっているとされています。
内容は在原業平だと思われる主人公の「男」が元服(成人すること)し、恋愛をして、亡くなるまでを書いた、「一代記」の形をとっています。全125段の小話でできており、和歌が含まれているのが特徴です。
「東下り」の大まかな内容
ある男が自分は必要のない人だと思い、友を連れ、都をでて東へ向かった。八橋で見事なかきつばたを見た時、京にいる妻を思った句を詠み周りが涙した。宇津の山では、知っている修行者と会い、都に残した妻へ手紙を託した。
原文
昔、男ありけり。その男、身をえうなきものに思ひなして、京にはあらじ、東の方に住むべき国求めに、とて行きけり。もとより友とする人、ひとりふたりして行きけり。道知れる人もなくて、惑ひ行きけり。三河の国八橋といふ所に至りぬ。そこを八橋といひけるは、水ゆく河の蜘蛛手なれば、橋を八つ渡せるによりてなむ、八橋といひける。その沢のほとりの木の陰に下りゐて、乾飯食ひけり。その沢に、かきつばたいとおもしろく咲きたり。それを見て、ある人のいはく、「かきつばた、といふ五文字を句の上に据ゑて、旅の心を詠め。」と言ひければ、詠める。
唐衣着つつなれにしつましあればはるばるきぬる旅をしぞ思ふ
と詠めりければ、みな人、乾飯の上に涙落として、ほとびにけり。
行き行きて、駿河の国に至りぬ。宇津の山に至りて、わが入らむとする道はいと暗う細きに、蔦・楓は茂り、もの心細く、すずろなるめを見ることと思ふに、修行者会ひたり。「かかる道は、いかでかいまする。」と言ふを見れば、見し人なりけり。京に、その人の御もとにとて、文書きてつく。
駿河なる宇津の山べのうつつにも夢にも人にあはぬなりけり
富士の山を見れば、五月のつごもりに、雪いと白う降れり。
時知らぬ山は富士の嶺いつとてか鹿の子まだらに雪の降るらむ
その山は、ここにたとへば、比叡の山を二十ばかり重ね上げたらむほどして、なりは塩尻のやうになむありける。
なほ行き行きて、武蔵の国と下総の国との中に、いと大きなる河あり。それをすみだ河といふ。その河のほとりに群れゐて、思ひやれば、限りなく遠くも来にけるかなとわびあへるに、渡し守、「はや舟に乗れ。日も暮れぬ。」と言ふに、乗りて渡らむとするに、みな人ものわびしくて、京に思ふ人なきにしもあらず。さる折しも、白き鳥の、嘴と脚と赤き、鴫の大きさなる、水の上に遊びつつ魚を食ふ。京には見えぬ鳥なれば、みな人見知らず。渡し守に問ひければ、「これなむ都鳥。」と言ふを聞きて、
名にし負はばいざこと問はむ都鳥わが思ふ人はありやなしやと
と詠めりければ、舟こぞりて泣きにけり。
現代語訳
昔、男がいた。その男は、自分を役に立たないものと思い込んで、京にはおるまい、東国の方に住むのによい国を見つけようと思って行った。以前から友とする人、一人二人とともにに行った。道を知っている人もいなくて、迷いながら行った。三河の国の八橋というところに着いた。そこを八橋といったのは、水の流れる川が蜘蛛の足のように、橋が八つ渡していることによって、八橋といった。その沢のほとりの木の陰に降りて座って、乾飯を食べた。その沢にかきつばたがたいそう美しく咲いていた。それを見て、ある人が言うことには、「かきつばたという五文字を和歌の句の上に置いて、旅の心を詠みなさい。」と言ったので、詠んだ。
着慣れた唐衣のように、長年慣れ親しんだ妻がいるので、はるばるやってきた旅をしみじみと思うことだ
と詠んだので、人はみな、乾飯の上に涙を落として、ふやけてしまった。
さらに進んで行って、駿河の国に着いた。宇津の山に着いて、自分が入ろうとする道は、とても暗く細い上に、蔦・楓は茂り、なんとなく心細く、思いがけない目に遭うことだと思っているときに、修行者に会った。「こんな道を、どうして行かれるのですか。」と言うのを見ると、見知った人であった。都にいる、あの人の御もとにと思って、手紙を書いて託した。
駿河にある宇津の山のように、現実でも夢でもあなたに会えないのであることよ
富士山を見ると、五月の下旬なのに、雪がとても白く降り積もっている。
季節をわきまえない山は富士の山だ。いつと思って鹿の子のまだら模様のように雪が降っているのだろうか
その山は、都でたとえるならば、比叡山を二十ほど積み上げたような高さで、形は塩尻のようであった。
さらに進んで行って、武蔵の国と下総の国との間に、たいそう大きな川がある。それを隅田川という。その川のほとりに集まって座って、思いを寄せていると、この上なく遠くに来たものだなあと互いに嘆きあっていると、渡し守が、「早く舟に乗りなさい。日も暮れてしまう。」と言うので、乗って渡ろうとするが、人はみななんとなく悲しくて、都に思う人がないわけでもない。ちょうどそのとき、白い鳥で嘴と脚とが赤く、鴫くらいの大きさの鳥が、水の上で遊びながら、魚を食べている。都では見かけない鳥なので、人はみな知らない。渡し守に尋ねると、「これは都鳥です。」と言うのを聞いて、
都という名前として持っているならば、さあ尋ねよう都鳥よ。私が思う人は無事かどうか
と詠んだので、舟担っている人はみんな泣いてしまった。
解説(ポイントのみ)
①昔、男ありけり。その男、身をえうなきものに思ひなして、京にはあらじ、東の方に住むべき国求めに、とて行きけり。もとより友とする人、ひとりふたりして行きけり。
「じ」は打消意志の助動詞。住む「べき」は「住むのに良い」と訳せることから「適当」と判断する。
②道知れる人もなくて、惑ひ行きけり。三河の国八橋といふ所に至りぬ。そこを八橋といひけるは、水ゆく河の蜘蛛手なれば、橋を八つ渡せるによりてなむ、八橋といひける。
知れ「る」は四段活用已然形に接続しているため「存続」。「ぬ」は連用形接続なので「完了」と判断。渡せ「る」は四段活用已然形に接続しているため「存続」。「なむ」は強意の係助詞で、結びの語は「ける」。
③その沢のほとりの木の陰に下りゐて、乾飯食ひけり。その沢に、かきつばたいとおもしろく咲きたり。それを見て、ある人のいはく、
「下りゐて」は「ゐる」の複合動詞なのでワ行上一段活用。詠め「る」は連用形に接続しているため「存続」と判断。「たり」も連用形に接続しているため「存続」と判断。
④「かきつばた、といふ五文字を句の上に据ゑて、旅の心を詠め。」と言ひければ、詠める。
「る」は四段動詞の已然形に接続しているため「完了」と判断、下に「歌」が省略されているため「連体形」になっている。
⑤唐衣着つつなれにしつましあればはるばるきぬる旅をしぞ思ふ
「に」は連用形接続なので「完了」。「ぞ」は強意の係助詞で、結びの語は「思ふ」。各句の頭文字が「か・き・つ・は・た」になっている。「唐衣」は「着る」を導く「枕詞」。「なれ」が「萎る」と「馴れる」、「つま」が「妻」と「褄」、「き」ぬるが 「来」と「着」を意味する「掛詞」になっている。
⑥と詠めりければ、みな人、乾飯の上に涙落として、ほとびにけり。
「に」は連用形接続なので「完了」と判断。
⑦行き行きて、駿河の国に至りぬ。宇津の山に至りて、わが入らむとする道はいと暗う細きに、蔦・楓は茂り、もの心細く、すずろなるめを見ることと思ふに、修行者会ひたり。
「ぬ」は連用形接続なので「完了」と判断。「む」は「わが」という言葉がついているので「意志」と判断する。「たり」は連用形接続なので「完了」。
⑧「かかる道は、いかでかいまする。」と言ふを見れば、見し人なりけり。京に、その人の御もとにとて、文書きてつく。
いかで「か」は疑問の係助詞で、結びの語は「いまする」。「なり」は体言に接続しているため「断定」。「けり」は過去の助動詞(詠嘆の助動詞と捉える場合もある)。
⑨駿河なる宇津の山べのうつつにも夢にも人にあはぬなりけり
「駿河なる宇津の山辺の」は「うつつ(現世)」を導き序詞。
⑩富士の山を見れば、五月のつごもりに、雪いと白う降れり。
⑪時知らぬ山は富士の嶺いつとてか鹿の子まだらに雪の降るらむ
「ぬ」は未然形に接続しているため「打消」と判断する。「か」は疑問の係助詞で、結びの語は「らむ」。雪「の」は主格。
⑫その山は、ここにたとへば、比叡の山を二十ばかり重ね上げたらむほどして、なりは塩尻のやうになむありける。
たとへ「ば」は未然形に接続しているため「順接仮定条件」。「む」は文中にあるので「婉曲」と判断。「なる」は強意の係助詞で、結びの語は「ける」。
⑬なほ行き行きて、武蔵の国と下総の国との中に、いと大きなる河あり。それをすみだ河といふ。その河のほとりに群れゐて、思ひやれば、限りなく遠くも来にけるかなとわびあへるに、
「も」は強意の係助詞。「に」は連用形接続なので「完了」と判断する。
⑭渡し守、「はや舟に乗れ。日も暮れぬ。」と言ふに、乗りて渡らむとするに、みな人ものわびしくて、京に思ふ人なきにしもあらず。
「ぬ」は「強意」の助動詞で、「日が暮れてしまう」と訳す。「む」は「意志」の助動詞。「に」は連体形に接続しているため「断定」。
⑮さる折しも、白き鳥の、嘴と脚と赤き、鴫の大きさなる、水の上に遊びつつ魚を食ふ。京には見えぬ鳥なれば、みな人見知らず。渡し守に問ひければ、「これなむ都鳥。」と言ふを聞きて、
白き鳥「の」は「同格」で「大きさなる」の下に「鳥」が省略されている。「ぬ」は未然形に接続しているため「打消」と判断。「なれ」は体言に接続しているため「断定」の助動詞。「なむ」は強意の係助詞で、結びの語は省略されている。
⑯名にし負はばいざこと問はむ都鳥わが思ふ人はありやなしやと
在原業平が詠んだ句。負は「ば」は未然形に接続しているため「順接仮定条件」。「む」は意志の助動詞。三句と四・五句が倒置になっている。
⑰と詠めりければ、舟こぞりて泣きにけり。
「に」は連用形に接続しているため「完了」。
練習問題(PDFダウンロード」可能)
問題は
①本文中にある動詞・助動詞の確認問題(品詞分解)
②読解問題
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伊勢物語 「東下り」 読解問題①
伊勢物語 「東下り」 読解問題②
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