紫式部日記の「若宮誕生・うきたる世」の解説と問題を無料で閲覧・ダウンロードすることができます!
「紫式部日記」とは
「紫式部日記」は平安時代中期の1010年頃までに完成されたとされる、紫式部による日記文学です。
紫式部は、平安時代中期に活躍した人物で、「源氏物語」を書いたことで有名です。また、一条天皇の中宮 彰子 に仕えていたことでも有名です。
1008年から1010年までの約1年半、紫式部の宮中での出来事について書かれており、宮中での出来事、宮中を出た後の「源氏物語」を書いているときの出来事、の2部編成になっている。
約250年後の鎌倉時代には、「紫式部日記」を絵巻にした「紫式部日記絵巻」が書かれてた。
同じ時代の作品には、「枕草子」や「和泉式部日記」などがある。
「若宮誕生・うきたる世」の大まかな内容
藤原道長は孫の若宮誕生を心から喜び、嬉しく思っている。華やかな宮中で紫式部はその様子を見つつも、心は晴れず孤独や虚しさに沈む。美しい菊や水鳥を眺めても、不安定な自分の姿を重ね、世のはかなさを深く感じている。
原文
十月十余日までも、御帳出でさせ給はず。西のそばなる御座に、夜も昼も候ふ。殿の、夜中にも暁にも参り給ひつつ、御乳母の懐をひき探させ給ふに、うちとけて寝たるときなどは、何心もなくおぼほれておどろくも、いといとほしく見ゆ。心もとなき御ほどを、わが心をやりて、ささげうつくしみ給ふも、ことわりにめでたし。あるときは、わりなきわざしかけ奉り給へるを、御紐ひき解きて、御几帳の後ろにてあぶらせ給ふ。「あはれ、この宮の御尿に濡るるは、うれしきわざかな。この濡れたる、あぶるこそ、思ふやうなる心地すれ。」と、喜ばせ給ふ。
中務の宮わたりの御ことを、御心に入れて、そなたの心寄せある人とおぼして、語らはせ給ふも、まことに心の内は、思ひゐたること多かり。
行幸近くなりぬとて、殿の内をいよいよつくりみがかせ給ふ。よにおもしろき菊の根をたづねつつ、掘りて参る。色々うつろひたるも、黄なるが見どころあるも、さまざまに植ゑ立てたるも、朝霧の絶え間に見わたしたるは、げに老いもしぞきぬべき心地するに、なぞや。まして、思ふことの少しもなのめなる身ならましかば、すきずきしくももてなし、若やぎて、常なき世をも過ぐしてまし。めでたきこと、おもしろきことを見聞くにつけても、ただ思ひかけたりし心の引く方のみ強くて、もの憂く、思はずに、嘆かしきことのまさるぞ、いと苦しき。いかで、今はなほ、もの忘れしなむ、思ひがひもなし、罪も深かなりなど、明けたてばうちながめて、水鳥どもの思ふことなげに遊び合へるを見る。
水鳥を水の上とやよそに見む我もうきたる世を過ぐしつつ
かれも、さこそ心をやりて遊ぶと見ゆれど、身はいと苦しかんなりと、思ひよそへらる。
現代語訳
十月十日余りまでも、御帳台からお出にならない。西側のそばにある御座所に、夜も昼もお仕えしている。殿(藤原道長)は、夜中にも明け方にも、参上なさっては、御乳母の懐をお探りになるが、安心して眠っているときなどは、ぼんやりと寝ぼけて目覚めるのも、とても気の毒に思われる。頼りないご様子を、自分が満足した様子で高く抱き上げてかわいがりなさるのも、当然ながらめでたいことである。あるときには、とんでもないことをしかけなさってしまわれたのを、紐をひき解かれて、御几帳の後ろであぶりなさる。「ああ、この若宮の御尿に濡れるのは、うれしいことだなあ。この濡れてしまったのを、あぶるのは、望みどおりのような心地がするものだ。と、お喜びになる。
中務の宮に関することに、ご熱心で、そちらのほうに心を傾けているものとお思いになって、お話しになるのも、本当に心の中には思案に暮れることが多くある。
行幸が近くなったというので、屋敷の中をますます立派にお作りなさる。実にすばらしい菊の根を、探しては掘って持って参上する。色とりどりに移り変わっていくのも、黄色で見どころのあるのも、さまざまに植えてあるのも、朝霧の切れ間に見わたした景色は、本当に老いも退いていくような気分になるのに、なぜだろうか。まして、もの思いすることが少しでも普通の身であったなら、風流らしく振る舞い、若々しくなって、無常のこの世をも過ごすことだろうに。すばらしいこと、趣深いことを見たり聞いたりするにつけても、ただ思いつめた心に引きつける方ばかりが強くて、なんとなく憂うつで、思いがけず、嘆かわしいことが多いことが、とても苦しい。どうにかして、今はやはり、何もかも忘れしてしまおう、思っても意味のないことだ、罪深いことだというなど、夜が明けてくれば、物思いにふけながら眺めて、水鳥たちが物思いすることもなさそうに遊びあっているのを見る。
水鳥を、水の上にいる自分とは関係のないものと見ることができるだろうか。私もうかんだような不安を持ちながらこの世を過ごしているのだ。
あの水鳥も、あのように気ままに遊んでいるように見えるが、その身は、たいそう苦しいに違いない、思い合わせられるのである。
解説(ポイントのみ)
①十月十余日までも、御帳出でさせ給はず。西のそばなる御座に、夜も昼も候ふ。
「させ給は」は二重尊敬で、「筆者から彰子」への敬意。「なる」は体言に接続しているため「断定」の助動詞。「候ふ」は謙譲語で、「筆者から彰子」への敬意。
②殿の、夜中にも暁にも参り給ひつつ、御乳母の懐をひき探させ給ふに、うちとけて寝たるときなどは、何心もなくおぼほれておどろくも、いといとほしく見ゆ。
「参り」は謙譲語で、「筆者から彰子」への敬意。「給ひ」は尊敬語で、「筆者から殿」への敬意。「させ給ふ」は二重尊敬で、「筆者から殿」への敬意。「たる」は連用形に接続しているため「存続」の助動詞。
③心もとなき御ほどを、わが心をやりて、ささげうつくしみ給ふも、ことわりにめでたし。
「給ふ」は尊敬語で、「作者から殿」への敬意。
④あるときは、わりなきわざしかけ奉り給へるを、御紐ひき解きて、御几帳の後ろにてあぶらせ給ふ。
「奉り」は謙譲語で、「筆者から殿」への敬意。「給へ」は尊敬語で、「筆者から若宮」への敬意。「る」は四段已然形に接続しているため「完了」の助動詞。「せ給ふ」は二重尊敬で、「筆者から殿」への敬意。
⑤「あはれ、この宮の御尿に濡るるは、うれしきわざかな。この濡れたる、あぶるこそ、思ふやうなる心地すれ。」と、喜ばせ給ふ。
「かな」は詠嘆の終助詞。「たる」は連用形に接続しているため「完了」の助動詞。「こそ」は強調の係助詞で、結びの語は「すれ」。「せ給ふ」は二重尊敬で、「筆者から殿」への敬意。
⑥中務の宮わたりの御ことを、御心に入れて、そなたの心寄せある人とおぼして、語らはせ給ふも、まことに心の内は、思ひゐたること多かり。
「おぼし」は尊敬語で、「筆者から殿」への敬意。「せ給ふ」は二重尊敬で、「筆者から殿」への敬意。「たる」は連用形に接続しているため「存続」の助動詞。
⑦行幸近くなりぬとて、殿の内をいよいよつくりみがかせ給ふ。よにおもしろき菊の根をたづねつつ、掘りて参る。
「行幸」は「みゆき」と読み、「天皇が出かけること」を意味する。「ぬ」は連用形に接続しているため「完了」の助動詞。「せ給ふ」は二重尊敬で、「筆者から殿」への敬意。「参る」は謙譲語で、「筆者から殿」への敬意。
⑧色々うつろひたるも、黄なるが見どころあるも、さまざまに植ゑ立てたるも、朝霧の絶え間に見わたしたるは、げに老いもしぞきぬべき心地するに、なぞや。
「たる」は連用形に接続しているため「存続」の助動詞。「たる」は連用形に接続しているため「存続」の助動詞。「ぬ」は下に推量の助動詞「べき」が続いているため、「強意」の助動詞と判断する。「や」は疑問の終助詞。
⑨まして、思ふことの少しもなのめなる身ならましかば、すきずきしくももてなし、若やぎて、常なき世をも過ぐしてまし。
「なる」は連体形に接続しているため「断定」の助動詞。「ましか」は反実仮想の助動詞。ましか「ば」は未然形に接続しているため、「仮定条件」と判断する。過ぐし「て」は、後ろに反実仮想の助動詞「まし」が続いているため「強意」の助動詞と判断する。
⑩めでたきこと、おもしろきことを見聞くにつけても、ただ思ひかけたりし心の引く方のみ強くて、もの憂く、思はずに、嘆かしきことのまさるぞ、いと苦しき。
「たり」は連用形に接続しているため「存続」の助動詞。「ぞ」は強調の係助詞で、結びの語は「苦しき」。
⑪いかで、今はなほ、もの忘れしなむ、思ひがひもなし、罪も深かなりなど、明けたてばうちながめて、水鳥どもの思ふことなげに遊び合へるを見る。
「いかで」は疑問を表す副詞。「な」は下に意志の助動詞「む」が続いているたあめ「強意」の助動詞。合へ「る」は連用形に接続しているため「存続」の助動詞。
⑫水鳥を水の上とやよそに見む我もうきたる世を過ぐしつつ
「や」は反語の係助詞で、結びの語は「む」。「む」は「推量」の助動詞。「たる」は連用形に接続しているため「存続」の助動詞。
⑬かれも、さこそ心をやりて遊ぶと見ゆれど、身はいと苦しかんなりと、思ひよそへらる。
「こそ」は強意の係助詞で、結びの語は省略されている。「ど」は逆接の接続助詞。「なり」は連体形に接続し、文脈から「推定」の助動詞。「らる」は「思ふ」に接続しているため「自発」の助動詞。
問題(PDFダウンロード可能)
問題は
①本文中にある動詞・助動詞の確認問題(品詞分解)
②読解問題
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紫式部日記「若宮誕生」 練習問題②
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